北九州市

北九州市が挑む窓口DX データに基づく継続的な窓口改革

導入自治体:福岡県北九州市

 

人口約90万人を有する政令指定都市である北九州市では、「書かない、待たない、行かなくていい区役所」の実現に向け、「スマらく区役所サービスプロジェクト」を推進しています。

その「待たない」を実現する取組が、窓口予約・受付システム「FrontDesk」の導入です。

2025年6月に全7区役所で予約機能の運用を開始し、累計予約利用件数は12,425件(2026年5月末時点)、蓄積された窓口データは200万件を超えました。窓口予約利用者の市民満足度は92%に達し、窓口運営をデータで可視化する基盤が整いました。

一方で、導入までには政令指定都市ならではの組織横断的な調整が必要でした。また現在は、予約利用率の向上と、データに基づいて改善を続ける組織文化の定着という新たな課題にも取り組んでいます。

 

「窓口が混んでいる」は分かっていた。しかし実態は分からなかった

FrontDesk導入前、北九州市でも窓口の混雑は大きな課題でした。

一部の窓口には発券機が導入されていましたが、データを取得するためには担当者が各区役所を回って長時間かけてデータを取得する必要があり、データ活用はほとんど行われていませんでした。窓口の混雑状況や待ち時間については、職員の経験や感覚で語られている状況でした。

当時を振り返り、総務市民局 区役所窓口担当課長 三浦雄一氏は次のように語ります。
「繁忙期には3時間待ちが出ると言われていましたが、それがどのぐらいの割合なのか、どのような状況で発生するのかが分からない状態でした。」

また、区役所には多様な手続きが存在するため、市民を適切な窓口へ案内すること自体が大きな負担となっていました。特に保健福祉分野では10以上の窓口があり、フロア案内のスタッフには幅広い業務知識が求められていました。

こうした課題を解決するために北九州市が着目したのが、「まず測ること」でした。

 

当時、デジタル政策監だった上田紘嗣氏は次のように振り返ります。
「デジタルトランスフォーメーションや変革を進めるときには、計測できる指標が必要です。FrontDeskはその考え方と非常に親和性が高いソリューションでした。」

また、デジタル市役所推進室 行政サービス改革担当課長を務めていた須山孝行氏は、「FrontDeskの価値は予約・受付機能だけでなく、窓口運営の改善に必要なデータを取得できる点にあった」と話します。
収集したデータを活用できることから、窓口業務の課題解決につながる可能性を感じ、まずは実証実験から取り組みを開始しました。

 

大規模自治体ならではの調整を乗り越える

FrontDeskとの出会いは、2021年に開催されたデンマーク大使館主催のGovTechセミナーに上田氏がオンライン参加したことでした。上田氏は当時からデンマークの先進的な行政デジタル化に注目しており、このセミナー参加をきっかけにデンマーク大使館と北九州市は相互に交流・理解を深め、2022年10月にはデジタル化、環境、エネルギーの分野における協力に関する覚書を締結。翌年1月には静岡県裾野市と共同でFrontDeskのパイロットプロジェクトを開始。窓口DXの取組として、窓口予約・受付システムの導入に向け検討を進めることになりました。しかし、導入までの道のりは決して平坦ではありませんでした。

北九州市は7つの行政区を持つ政令指定都市です。区役所窓口である市民課、国保年金課、保健福祉課、市税事務所のほか、それぞれの制度を所管する本庁部門などステークホルダーが多く、発券システムを変更するためには、多方面との調整が必要でした。そこで北九州市は、一気に全庁展開するのではなく、実証実験から始めることを選択しました。

2023年、上記の覚書に基づいて無償提供されたFrontDeskのライセンスを使うこととして、その他機材は総務省のフロントヤード改革モデルプロジェクト補助金を活用して、小倉北区役所でマイナポイント関連業務の予約受付を対象とした実証実験を実施。その後、手続き数が多く、案内が難しい保健福祉課でも検証を行いました。 保健福祉課では、案内スタッフや来庁者が自ら手続きを選択できる分かりやすい発券画面を設計し、職員と市民双方の負担軽減に資することが把握できました。また、これまで漠然と認識されていた窓口毎の時間当たりの受付数や手続きにかかる時間などのデータをリアルタイムで収集できることも確認しました。

この実証実験の結果をもとに本格導入を推進。2024年10月には全区役所で発券機運用を開始し、2025年6月には予約機能の全区展開を実現しました。

 

市民サービス向上と窓口運営の改善

FrontDesk導入後、北九州市では予約受付を全区役所で開始し、累計予約利用件数は12,425件に達しました(2026年5月末時点)。利用者アンケートでは満足度92%、今後も利用したいとの回答は95%となっており、市民からも高い評価を得ています。

 

利用者からは、

「小さな子どもを連れているので、予約ができてとても助かった」

「仕事を休んで区役所に行くが、窓口予約は予定が組みやすくたいへんありがたい」

「妊娠中で、待ち時間が長いと体力的にきついが、今回は少ない待ち時間で手続きができてとても助かった」

といった声が寄せられています。予約によって来庁時間の見通しが立ちやすくなり、市民の利便性向上につながっています。

また、保健福祉課では発券機を活用して窓口案内を見直したことで、来庁者を適切な窓口へ迷わず案内できるようになり、また、来庁目的を事前に窓口職員が把握できるようになるなど、円滑な窓口運用にもつながりました。

 

データを活用した窓口改革の基盤を構築

北九州市にとって大きな成果の一つが、窓口業務をデータで把握できるようになったことです。

導入前は、窓口の混雑状況や待ち時間を客観的に把握することが難しく、「混んでいる」という感覚的な議論にとどまりがちでした。政策局 DX・AI戦略室 DX推進担当係長 金田典子氏は次のように説明します。
「2024年10月から取得したデータは現在200万件を超えています。各職員がダッシュボードから平均処理時間や件数を確認できるようになりました。」

現在は、職員がイントラネット上のダッシュボードから手続き件数や平均処理時間、待ち時間などを確認できるようになっており、繁忙期の傾向分析や窓口改善の検討に活用できる環境が整っています。

 

データに基づいて改善を続ける組織文化の定着へ

北九州市では、FrontDeskの導入をゴールではなく、窓口改革のスタート地点と捉えています。

現在、予約利用件数も日に日に増加し、利用者からも高い評価を得ています。予約機能を有効活用できている窓口は、ほとんどの来庁者が予約を利用している一方、その他の手続きの予約利用率は数%にとどまっており、予約という新しい窓口利用の方法はまだ発展途上の段階にあります。今後は、市民への周知や運用改善を進めながら、より多くの方に予約を活用してもらうことで、待ち時間の削減や窓口の混雑緩和につなげていきたいと考えています。

また、FrontDeskの導入によって、待ち時間や処理時間、手続き件数などを可視化できる環境は整いましたが、重要なのは、収集したデータを活用しながら、窓口運営を継続的に改善していくことです。

北九州市では今後、まず「今何が課題なのか」「どのような窓口サービスを目指すのか」を明確にしたうえで、なぜ理想の状態との差が生じているのかをデータから分析し、改善策を検討していく考えです。その結果を踏まえながら、窓口運用やカスタマージャーニーの見直しにつなげ、関係部署が共通の課題認識と改善の方向性を共有しながら、継続的な業務改善を進めていくことを目指しています。

窓口改革は一朝一夕に実現するものではありません。それでも、実態を把握し、課題を可視化し、改善につなげるための基盤は整いました。今後は、予約利用のさらなる拡大と、データに基づいて改善を続ける組織文化の定着を通じて、「書かない、待たない、行かなくていい区役所」の実現につなげていきます。