2026.09.09

自治体実践レポートシリーズ vol.2 帯広市

自治体実践レポート

「データで組織を動かす」

― 帯広市に学ぶ窓口改革の意思決定プロセス ―

Executive Summary

自治体窓口DXでは、「改革が必要だ」という思いだけでは組織は動かない。帯広市の事例から見えてきたのは、ビジョンをデータで裏付け、段階的に実証しながら組織の納得を積み重ねていくことの重要性である。

帯広市では、窓口改革を単なる予約システムの導入ではなく、「窓口業務そのものをデータで見える化し、運営方法を根本から変えるトランスフォーメーション」と位置付けていた。高橋氏と山崎氏は「ビジョンだけでは『また理想論だ』と思われるが、データがあることで組織を説得できた」と振り返っている。

また、改革は一度に進めるのではなく、小さな成功を積み重ねながら職員の理解を得ることを重視した。システム導入そのものではなく、組織文化を変えることこそが窓口DXであるという考え方が一貫して語られていた。

 

1. なぜユーザー視点へ転換できたのか

帯広市が目指したのは、「待ち時間を短縮すること」だけではなかった。

従来は経験や勘に頼っていた窓口運営を、業務ごとの処理時間や来庁者数などのデータに基づいて設計し直すことで、市民にとっても職員にとっても効率的な窓口運営を実現しようとした。システムにより、受付から業務終了までの処理時間を業務別に把握できるようになり、繁忙期に必要な窓口数や人員配置を論理的に検討できるようになった。

高橋氏と山崎氏は、「感覚で判断していた仕事を数値で見られるようになったことで、次の改善を考えられるようになった」と語っている。

示唆

ユーザー視点とは、市民の待ち時間だけを見ることではない。業務全体をデータで可視化し、サービスを継続的に改善できる状態をつくることである。

 

2. 「前例がない」をどう乗り越えたのか

帯広市では、改革を一度に実施するのではなく、「スモールスタート」と「段階的な展開」を基本方針とした。

まず小さな範囲で運用を開始し、そこで得られた成果や課題を踏まえて次の段階へ進むというアプローチを採用した。これは、職員が新しい仕組みに慣れる時間を確保するとともに、予約制度という新しい概念を市民にも徐々に受け入れてもらうためであった。

また、民間では予約サービスが一般化している現状を踏まえ、「なぜ市役所だけが従来のやり方を続けるのか」という問題意識も改革を後押しした。

示唆

「制度を変える」のではなく、「人が新しいやり方に慣れるプロセスを設計する」ことが、窓口DX成功の鍵となる。

 

3. データが組織を動かす

帯広市の事例で最も特徴的だったのは、「データを組織内の共通言語にした」点である。

高橋氏と山崎氏は、「ビジョンだけでは信用されないが、データがあることで説明に説得力が生まれる」と語る。実際、システムから取得した業務時間や待ち時間、来庁者数などのデータを基に、必要な窓口数や人員配置を論理的に説明できるようになった。

こうしたデータは、総務部門など慎重な立場の部署との調整においても重要な役割を果たした。「この人数、この窓口数であれば混乱は起きない」という根拠を示せるようになったことで、改革への理解が進んだのである。

一方で、高橋氏と山崎氏は、データ分析には依然として手間がかかることも指摘している。CSVデータを加工して分析する必要があり、より直感的な分析機能があれば、さらに検討や説明がしやすくなるとのフロントデスク社への改善提案も挙げられた。

示唆

改革を進めるには、「データを集めること」だけでなく、「誰もが理解できる形で活用できること」が重要である。

 

4. リスクを管理しながら挑戦する

行政では、「失敗できない」という意識が改革を妨げることが少なくない。

帯広市では、戸籍や住民票の発行といった基幹業務は慎重にリスク管理を行う一方で、予約システムについては「万一停止しても従来の運用に戻せる」という考え方を持っていた。番号札による受付など、従来の運営方法をバックアップとして確保することで、挑戦への心理的ハードルを下げていた。

高橋氏と山崎氏は、「ある程度チャレンジするという覚悟がなければ行政は変われない」と率直に語っている。

示唆

リスクをゼロにすることはできない。重要なのは、失敗しても元に戻せる仕組みを準備した上で挑戦することである。

 

5. 成功を支えた組織文化

帯広市では、トップダウンよりも現場主体の改革が特徴的だった。

市長や副市長から細かな指示があったわけではなく、「現場が考え、組み立て、ボトムアップで進めること」を尊重する文化があった。その一方で、現場はデータを基に論理的な説明を重ねることで、庁内からの理解と信頼を徐々に獲得していった。

高橋氏と山崎氏は、「戸籍住民課はいろいろなことに挑戦している」という前向きな評価が庁内で広がり、それが新たな改革を後押しする雰囲気につながったと振り返っている。

示唆

改革を支えるのは制度ではなく、挑戦を認める組織文化である。実績を積み重ねることで、組織内の「信頼残高」が次の改革を進める力になる。

 

他自治体への5つの提言

帯広市の経験は、他自治体が窓口DXを進める際に次の五つの示唆を与えている。

  1. ビジョンだけでなく、データで説明する。 改革の必要性や効果は、定量的な根拠を示すことで組織の納得につながる。
  2. 小さく始め、段階的に広げる。 システムだけでなく、人が新しい運用に慣れるプロセスを設計することが重要である。
  3. リスクを管理しながら挑戦する。 バックアップ手段を確保することで、失敗への不安を減らし、改革に踏み出しやすくなる。
  4. 現場主導のボトムアップを尊重する。 改革は現場が主体となり、データに基づく説明を積み重ねることで組織全体へ広がっていく。
  5. 窓口DXをシステム導入ではなく「トランスフォーメーション」と捉える。 業務や組織文化そのものを変えることが、持続的な改革につながる。

 

結論

帯広市の事例が示しているのは、窓口DXとは「データによって組織を変えるプロセス」であるという点である。

改革の出発点はシステムではなく、「現状を見える化し、論理的に説明できる状態をつくること」にあった。そして、小さな成功を積み重ね、リスクを管理しながら職員の意識を変えていくことで、窓口改革は一過性のDXではなく、組織文化の変革へと発展していった。

他自治体が参考にすべきなのは、フロントデスク社の予約システムというツールだけではなく、データを共通言語とし、段階的な挑戦を積み重ねながら組織全体を変革していく窓口DXの進め方そのものである。